ふしぎな少年

ふしぎな少年 (小学館文庫)

ふしぎな少年 (小学館文庫)


手塚治虫、1961年の作品。卒業論文で学部生が取り上げているので読んでみると、これが面白い。いわゆるメタ漫画で、冒頭部で線と平面と空間と四次元についての絵解きが二次元の漫画の中で行われる。主人公の少年はひょんなことから、三次元に軸が一本加わり、3+1次元の存在になる。少年は+1という加算を通じて時間を停止させ、様々な事件を解決していく。これらの事件も、アメリカからの独立国であることを殊更主張したり、日本人の技術力が優れていることが強調されていて時代を反映しているのだけれど、何よりも重要なのがこの時期テレビが登場しているということだ。そもそもこの漫画もテレビの原作として書かれたらしい。そこにテレビの出現を目の当たりにした手塚の漫画に対する再考の跡が見える。
物語の後半に入ると、少年はまたまたひょんなことから今度は次元が引き算される。3-1次元、つまり二次元になってぺらぺらになる。もともと二次元の静止画の連続である漫画にもかかわらず時間が止まり、ぺらぺらになるというのが笑える。しかも、時間をとめる能力は、つまり時間軸を加算する能力は保持しているから、3-1次元に1つ軸を加え、3-1+1次元で三次元。時を止めたときは立体に戻る(笑)芸が細かい。もちろんこの説明には矛盾はあるのだけれど・・・。
最終的に彼は能力を喪失し、世間からの注目をあびることもなく平然と去っていくのだが、読者の視線に気がつき、「プライバシーを覗くのは止めろ」と懇願し漫画は終わる。