様式の闘争としての「修復」

件のスペイン宗教画の「修復」を改めてちゃんと見てみた。

別に意図的に無茶しているわけではなく、もとの絵を踏まえた上で、それをきちんと再現しようという努力はしてる。その意味で、技術的には稚拙であるものの、別に作品を雑に扱っているわけでは決しなく、むしろ、信仰心の表れとして、修復を行おうとしているように思う。その意味で今回の事例をただちにヴァンダリズムとみなすのには抵抗がある。

ただし、明暗法を駆使して描かれた元絵の立体感に対して、上書きされた絵は、まったく明暗法が用いられていない(努力の痕跡はあるけど、光源とかを理解したうえでのことではない)。空間の把握の仕方が全然違う。元絵とのギャップは(写実性を規範とするのであれば)確かに「稚拙」にも見えるけど、見ようによっては、中世の平面的な様式へと強引に引き戻す試みのようにすら見える。様式が闘争する場を創出する作業としての修復。

そもそも、「美術作品」の「オリジナル」が損なわれたことを批判する諸言説はわからなくもない。けれども、あくまでそれが礼拝の対象であることを鑑みれば、熱心な信者による修復は、それはそれで意味のあることかもしれない。見方を変えれば、様式回帰的な今回の「修復」は、宗教画の美術品化への抗いなのかもしれない。

Blind Spot vol.3 ―写真の未来―

いよいよ、さしあたりの最終回です。今回は、これまでの議論――写真の現在、写真の過去――を踏まえた上で、写真の未来へと思いを巡らせてみたいと思います。

Blind Spot vol.3 ―写真の未来―

  • 会場:MEDIA SHOP
  • 時間:18:00〜20:30
  • 参加費:500円
  • ゲスト:高橋耕平(作家)

日本初期映画のプラクティス――興行・観客・都市――

上田学『日本映画草創期の興行と観客―東京と京都を中心に』刊行記念トーク・ショー

日本初期映画のプラクティス―興行・観客・都市―

日本映画草創期の興行と観客 ― 東京と京都を中心に

日本映画草創期の興行と観客 ― 東京と京都を中心に

現代の日本において、私たちは映画館に向かい、映画作品を楽しんでいます。けれども、一〇〇年前の東京や京都でも、同じように人びとは、映画を受容していたのでしょうか?一九〇〇年代の日本映画の草創期については、古くから歴史化の作業が行われてきた。そうした作業は、同時代の日露戦争(一九〇四〜〇五)や国家の発展を重要視し、それらと映画産業の拡大とを重ね合わせ、日々直線的に進歩する発達史の描出であった。
上田学氏の近著『日本映画草創期の興行と観客――東京と京都を中心に』は、そうした単線的な歴史描写に疑問を投げかけ、誕生期の日本映画における映画、興行、観客、都市(東京・京都)の複雑なダイナミズムを同時代の膨大な資料から明らかにしていく。そのとき、日本映画草創期とは、映画の製作、流通、受容のプラクティス、言い換えれば、それらの実践の反復を通じた慣習化とその変容として描かれる。ではその慣習化と変容は具体的にどのようなものであったのか?また現代の私たちの映画経験とどのような関係にあるのか?本レクチャーでは著者である上田学氏をお迎えし、聞き手・参加者の皆様とともにこうした問題を議論していきたいと思います。

トーク・イベント「Blind Spot」Vol. 2

少し間が空いてしまいましたが、写真について語り、考えるイベント「Blind Spot」第二回を行ないます。今回は、前回の「写真の現在」を踏まえ、現在へと至る写真の歴史を、特にアメリカと日本の文脈を中心に議論していこうと考えています。前回の話を聞かれていない方でも、会の最初にこれまでのあらすじを紹介しますので、是非ご参加ください。

Blind Spot vol.2 ―写真の過去―

  • 会場:MEDIA SHOP
  • 日時:7月11日(水)19:00〜20:30
  • 参加費:500円
  • ゲスト:小林 剛(関西大学文学部准教授)

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トーク・イベント「Blind Spot」

この度、トーク・イベント「Blind Spot」を開催する運びとなりました。これは、シリーズ・イベントとして「vol.1 写真の現在」「vol.2 写真の過去」「vol.3 写真の未来」と3回に分けて、写真家の鈴木崇氏と共に、写真を語らう場として創設した、公開ミーティング形式のトーク・イベントです。初回「vol.1 写真の現在」では、愛知県美術館学芸員の中村史子さんをお迎えして、写真について、あるいは写真に関する様々について多角的に考えていきます。国立国際美術館で5月12日に開催されたシンポジウム「写真の誘惑――視線の行方」で提出された論点についても僕たちなりに触れていきたいと思います。

  • Blind Spot vol.1 ――写真の現在――

現在、写真を使った表現は、芸術ジャンルの一つとして認識されているといってもよいでしょう。その一方で、写真は様々な領域を超えて、広く私達の日常に浸透し、それが置かれているコンテクストに応じて、芸術作品、広告、出来事の記録、思い出の品として、多様な表情を見せています。では、写真が芸術作品であることの条件とは果たして何なのでしょうか? 本イベントは、作家・鈴木崇が常日頃から思いを巡らせているこうした疑問に端を発しています。水のように掴みどころの無い写真に何が枠を与えているのかを見定めていくために、本イベントでは写真史研究者・林田新とともに、2世紀に渡って蓄積されてきた写真の歴史に目を向けて行きます。緩やかに、けれども真正面から写真の来し方行く末に思いを巡らせ、写真について語らう場を創設するべく、作家、研究者、キュレーター、さらには御来場いただく皆さまを交えた公開ミーティングを行ないます。

トーク・セッション盆栽 その後

トーク・セッション盆栽、ご来場くださった方、本当にありがとうございました。盆栽を取り上げたうえで、それを軸に各時代の文化論へと展開していくことの可能性が提示できたと思います。もっと深めることができる点も多々あったと思いますが、そこは反省点として今後生かしていきたいと思います。

今回は、前半部で盆栽の基礎的な知識と歴史を概説したうえで、後半部で工芸や絵画、あるいは美術制度といった近接領域に目配せしつつ、より多角的に盆栽について考える、といった構成だった。唐時代の盆景を起源とする盆栽が日本に入ってきたと言われる平安時代から、江戸期における園芸ブーム、明治期における盆栽の様式化を経て、現代の盆栽、ならびに海外におけるアートとしてのBONSAIブームまで、といった時代的・地域的に極めて広い射程を持つ議論が展開された。それゆえ、その都度提示される具体的な論点を十分に掘り下げ展開することが出来なかったというのは反省点としてある。しかし、その一方で、盆栽研究という未開の研究領域が切り開かれ、他領域の人達を巻き込みながら、古今東西あらゆる局面へと議論が展開されていくという過程を当事者として体感することができ、高揚感を覚えたこともまた確かだった。それもひとえに積極的に議論に参加して下さった来場者の皆さまのお陰です。ちなみに、 @さんがツイッターでの関連ツイートを纏めてくださっていますので、こちらもご参照ください。盆栽-Togetter(追記:トーク・セッションとは無関係なツイートも混ざっています)。
さて、今回来れなかったけど盆栽について知りたいと言う方の為に、参考文献を二冊ほど。盆栽研究者である川崎さんお勧めの二冊。

盆栽 (NHK美の壺)

盆栽 (NHK美の壺)


こちらの方が簡単で短くすぐ読めます。本当にポイントだけを抑えただけ、といった感じ。歴史に関する記述が乏しいので、トークを聞いて下さった方にはもしかしたらちょっと物足りないかもしれません。
盆栽 癒しの小宇宙 (とんぼの本)

盆栽 癒しの小宇宙 (とんぼの本)


こちらは、もともと『芸術新潮』での盆栽特集号を改めて一冊の本にまとめたもの。僕は本書は持っておらず。もともとの『芸術新潮』を持っているだけなので、もしかしたら内容に変化があるかもしれませんが、歴史を含めある程度詳しく書かれていますので、教科書としてお勧めです。

シンポジウム「震災と映像」

以下のシンポジウムに登壇します。

関西大学東西学術研究所特別講演会/比較映像文化班研究例会

シンポジウム「震災と映像」

*入場無料・申し込み不要

東日本大震災とそれに伴う原発事故という未曾有の複合災害は、映像という表象メディアにも大きな課題を突きつけている。本シンポジウムでは、映画祭「Image.Fukushima」の実行委員長を務める三浦哲哉氏、福島中央テレビで震災報道の現場に携わった村上雅信氏を招き、それぞれの立場から震災後の映像の現状について語っていただく。それとともに強制収容所や原爆といった他のカタストロフの表象についての報告を交え、カタストロフに向かう映像の諸問題について歴史的なパースペクティヴから討議する。また、東日本大震災の状景をいち早くカメラに捉えて話題となったドキュメンタリー映画『無常素描』もあわせて上映する。

  • 13 :00–14 :20 映画上映『無常素描』(大宮浩一監督/2011)
  • 14 :30–15 :15 基調講演「福島と3.11のイメージ」
    • 三浦哲哉(Image.Fukushima実行委員会会長)
  • 15 :30–16 :00 講演「震災・原発報道と映像」
    • 村上雅信(福島中央テレビ報道部記者)
  • 16 :00–17 :30 共同討議「カタストロフの映像」(司会 門林岳史)
    • 堀潤之「カタストロフへのまなざし 収容所の表象をめぐって」
    • 林田新「東松照明と原爆の表象」

↓チラシをダウンロード
http://dl.dropbox.com/u/5351230/disaster_and_image.pdf

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  • 問い合わせ先 関西大学東西学術研究所
    • 564-8680 吹田市山手町3-3-35
    • 児島惟謙館1F(研究室事務室)
    • TEL 06-6368-0653/FAX 06-6339-7721