ダイアローグ

滋賀県立近代美術館で開催中の展覧会『ダイアローグ コレクション活用術 vol.2 伊庭靖子、児玉靖枝、佐川晃司、渡辺信明』を見てきた。
個々の作家が「対話」の相手として選択する基準は様々なのだが、それらの作品が平地され展示空間に構成されることによって、それぞれの作家の作品の持つ問題意識が浮き上がってくる。例えば、冒頭の渡辺信明氏の展示室では、絵画に描かれている対象の共通性に応じて作品が展示されている。渡辺氏の作品の中核をなすモチーフは花であり、選択されている作品も花を描いたものが選ばれている。
一方で佐川晃司氏の部屋では、観賞態度に焦点が合わせられる。観者の身体的な動作によって様々に変化する作品の表情が際立たされる。渡辺氏の部屋の特徴を一言で言うのであればアブソープション、つまり絵の中に没入していくのに対し、佐川氏の部屋はシアトリカリティ、演劇性と言い表すことが出来る。
この二つの部屋で、没入と演劇性という二つの絵画のあり方が提示されるのだが、伊庭靖子氏と児玉靖枝氏の部屋ではそれらが奇妙に共存している。それは選択された作品と作家自身の作品との響きあいや、作品との距離によって観者はそこに描かれた対象を確認し、またその絵画の物質性に気が付かされる。絵画の中に没入していくと思えば同時にその表面に跳ね返される。着陸と離陸を繰り返すように往復運動を繰り返す。一つの展覧会で、こういった往復運動を経験したことはあまり無く、見ていてだんだん頭がくらくらしてきた。

本展は、アーティストならではの斬新な視点を導入したコレクション活用企画であり、2005年度に開催した「センシビリア −所蔵品によるある試み−」に次ぐ第2弾です。
 今回は、滋賀という地域に何らかの関わりを持つ4人の平面作家が、それぞれの自作と本館コレクションとの「対話」を試みます。造形性、地域性、美術史的視点などアプローチは様々ですが、いずれも各作家の制作上の問題意識を色濃く反映しています。つまりこの展覧会は、美術館のコレクションを触媒として、各作家が自身との対話を深化させる試みでもあるのです。
 作品と鑑賞者、あるいは鑑賞者どうしと、展覧会はさらなる「対話」をうみ出していくことでしょう。様々な場所、あらゆる次元での争いが絶えない現在、人と人との最も基本的なコミュニケーション単位としての「対話」が、改めて切実に求められているのではないでしょうか。本展が、そのささやかな一端を担うことができれば幸いです。