ヴィジュアルカルチャー
先日ぶらり立ち寄った本屋で見つけて衝動的に購入した本が本当に面白くてちょくちょく開いている。『日本のポスター 明治・大正・昭和』(ISBN:4879405736)という本なのだけど。その名の通り昔の日本の広告ポスターを文庫サイズに集めてきたもの。個人的には年代順に並べて欲しかったところであるが、筆者の三好一氏曰く、やはりここ日本に於いてポスター等を収集し、体系化するということはほとんど無かったらしく、ここに収録されているものの多くも、個人的なコレクションであったり古本屋で見つけたものだ。それゆえ製作年代を特定することは極めて困難なのだ。それゆえ、この本では広告の種類ごとに分類している。
京都工業繊維大学が思いのほかこの類の資料を多く保管しているらしく、この本にも頻繁に登場していた。
興味深いのは、初期の広告ポスター(というか戦前までの)が現代の感覚からすると果して広告として機能しうるのかが怪しいものであること。現代の広告のメカニズムを基本的に商品に対するイメージを植え付ける方法(例えば化粧品の広告)、もしくは、その商品を使用することによって得られる幸福を提示する方法(医薬品関係に多いパターン)なのだけれど、初期広告は製品名と絵柄がその中心で、鑑者の想像力に訴えかけるといような深みは幾ばくかは見られるものの、現代と比較したときにあまりに単純に見えてしまう。思うに、当時街中に貼られたであろう、これらのポスターは、単に人の目を惹きつけるだけでよかった。今のように街中に広告を中心とイメージが濫立し、歩行者(潜在的な消費者)のまなざしを奪い合うような状況はなかったと推測される。
酒の広告では、まなざされる対象、見るもののまなざしを惹きつける手段として美人画が数多く登場しているのだが、その広告の矛先が男性に向けられていることは明らかだ。
その他にも、数多くの種類の広告ポスターが収録されていて、そのどれもが現在の広告のメカニズムとは一線を画しており、資料として物凄く面白い。是非手にとって見て欲しい。